弁護士の事件簿・コラム
付添人活動のすすめ
横浜弁護士会 副会長 栗山 博史
成人の刑事事件の国選弁護制度と異なり、少年の国選付添制度の対象は重大事件に限られています。せっかく被疑者段階では国選弁護人が就いていたのに、家庭裁判所に送致された後は国選付添人が就かない。これはどう見ても不合理です。子どもの権利委員会が、全面的な国選付添人制度を求めて運動を展開していますが、この制度が実現された暁には、付添人活動の担い手を増やしてゆくことが求められます。
研修会や冊子等では、華々しく活動した付添人活動例がよく紹介されます。「否認事件で非行事実なしを獲得した」「少年の住み込み先を確保して試験観察に持ち込んだ」「学校と交渉して退学を免れて学校に戻せた」等々。その一方で、ある会員から、こんな声も聞きました。いろいろやろうとしたけど、結果的に、少年の更生のための社会資源を発掘することができず、少年と面会して話を聞くことしかできなかった。結果的に、少年の言い分を意見書で述べるだけだったと…。
でも、付添人が少年と何度も面会できたことは、それだけで良かったのではないかと素直に思います。
作家灰谷健次郎は、『わたしの出会った子どもたち』の中で、教師としての実体験を踏まえ、子どもの優しさや楽天性を土足で踏みにじることの罪の大きさを指摘し、優しさや楽天性がストレートに通らない社会では、大人が子どものかなしみを共有するということによってのみ、子どもの奥深く秘めているものを引き出すことができるのではないか、と述べています。非行をおかす多くの少年が「被害」体験を持っていると言われます。少年たちが、優しさや楽天性を土足で踏みにじられたまま生きてきたのだとしたら、その少年がその固有の能力を発揮して生きてゆくためには、まずは、大人の側が、少年の思いを共有することこそ求められるのでしょう。弁護士付添人は、最初に登場した「大人」の候補者なのかもしれません。
弁護士付添人というと、一般的に、被害者との示談交渉や環境調整活動といった役割が期待されます。これらはもちろん大切な活動ですが、基本は、まずは少年と向き合って、時間をかけて話をすることではないでしょうか。処分者(裁判所)サイドではない弁護士だからこそ、より一層それが可能なような気もします。その観点からも、全面的国選付添人制度は本当に必要なことだと思うのです。また、前述の少年との面会しかできなかったという会員も、もしかしたら、少年が生きてゆく上で必要な力を与えたのかもしれません。
どうか、多くの会員が付添人として少年と向き合っていただければと思います。
(横浜弁護士会子どもの権利委員会発行 『子どもの権利』第42号(2010年12月4日)所収
- « 前の記事 労働審判の一事例
- » 次の記事 クオークローンからプロミスへの契約切替事例