弁護士の事件簿・コラム

クオークローンからプロミスへの契約切替事例

弁護士 栗山 博史

◆ 債務者が貸金業者に対して利息制限法の法定利息(※1)よりも高額な利息を支払った場合に過払金の返還を求めるというケースは多くの弁護士が扱っております。
 ただ,最近は,業者側も過払金の請求が多額に及んでいて苦しいせいか,弁護士が交渉しても,過払金を,その利息どころか元本すら返還しないという場合が増えています。そういう状態ですから,過払金の返還を求めるべく,やむなく訴訟に訴えるというケースも当然増えてきます。
 そして,訴訟では,業者側は,①これ以上古い取引の資料は廃棄してしまっているので初回取引の時期がわからない,②取引は全体で10年にも及んでいるが,途中で期間が空いている時期があるから,過払金は別々に計算すべきだ,③過払金の利息については,「悪意」ではないから支払義務がない,など,諸々の主張を繰り返して争ってくることが一般的です(時間稼ぎと思われるような業者側の対応も多々あります)。

◆ 私がこのたび担当して東京高裁の勝訴判決(平成23年4月21日)を得た過払金返還請求事件は,ちょっと特殊な類型なのですが,最近,全国的に話題になっているケースですので,ご紹介したいと思います。こんな事例です。
 私の依頼者であるAさんは,2000年8月に初めてクオークローンから10万円を借り入れ,その後,借入・返済を繰り返しました。借入・返済はATM(機械)を通じて行っていました。借入・返済を7年ほど続けました。そして,2007年夏ころ,いつものとおり,返済のためにATMに赴いたところ,クオークローンのATMがなくなり,プロミスのATMに入れ替わっていました。Aさんは,プロミスに指示されるまま,プロミスの店舗に出向きました。この時点で,クオークローンに対する債務は約49万円残っていました。プロミスは,この約49万円の金額をAさんに貸し付けるという形をとり,クオークローンに対する返済に充てられ,クオークローンに対する借入金は消滅します。Aさんは,2007年9月の時点で,今度は,プロミスに対して約49万円の借入金債務を抱え,その後,2009年5月までの間,返済を続けました。Aさんは,2009年5月になんとか完済しました。

◆ このような,クオークローンからプロミスへの契約の切替という事例で,この業者2者について,それぞれ別々に,利息制限法に基づいて引き直し計算(※2)をしてみました。クオークローンの年利は約29%,プロミスの年利は年利約26%で,それぞれ利息制限法で定めた利率を上回っています。このような場合,事件の依頼を受けた弁護士は,必ず,利息制限法に基づく引き直し計算をしています。返済期間が長いと,借入金が消滅するだけでなく,過払い(業者が受け取る権利のないお金を保有していること)という事態が生じます。Aさんのケースを計算してみたところ,クオークローンに対しては約60万円(元本),プロミスに対しては約5万5000円(元本)の過払いとなりました。
 しかし,クオークローン(現在の会社名は「クラヴィス」)は,実は,プロミスグループに属しながら,2007年に全店舗を閉店した弱小会社で,プロミスと異なり,資金力は乏しい会社です(正確に確認したわけではないですが,交渉しても,「1割程度なら返せます」などと平気で言ってきます)。
 そもそも,Aさんに契約の切替をさせたのはプロミスなのだから,クオークローン⇒プロミスの取引を一連の取引と考えて,プロミスが過払金全額の返還を行うべきではないか。一連の取引だとして計算すると,過払金は元本ベースで約77万円になります。しかし,プロミスは,そういう前提の交渉には応じません。過払金はあくまでも約5万5000円(元本)だと言って譲りません。
 そこで,クオークローン⇒プロミスの取引全体を一連の取引として過払金を計算して,プロミスに対して過払金の返還を求める訴訟を起こすことになったのです。

◆ 実は,このようなプロミス相手の訴訟は,全国の裁判所で数多く起こされています。なぜかと言えば,前述の契約の切替がプロミスグループの再編として組織的に一斉に行われたからです。
 クオークローンは,2007年当時,プロミスの100%子会社でした。プロミスは,当時,グループ金融子会社の再編を目的として,クオークローンを廃業し,クオークローンの債権をプロミスに移行し,顧客の一部について切替契約を締結し,顧客に貸付を行って,クオークローンに対する借入金の返済に充てさせるということを組織的に実行しました。プロミスとクオークローンは,2007年6月に,顧客の知らないところで,業務提携契約を締結していました。その契約書には,クオークローンの一切の債務をプロミスが連帯して責任を負うとされていました。そういう2業者間の契約のもとで,多くの顧客が契約の切替に応じていったのです。

◆ ところが……です。プロミスに対する過払金返還請求が予想以上に多かったからでしょうか,2008年12月,プロミスとクオークローンは,前述の業務提携契約を変更しました。クオークローンの債務はクオークローンのみが負担し,プロミスは何らの責任を負わない,と改めたのです。契約は,当事者間で自由に変更することができるのが原則です。業務提携契約は,プロミスとクオークローンとの間の2者間のものだと考えれば,2007年に一旦契約締結しても,2008年に変更することはできる,したがって,プロミスはクオークローンの過払金返還債務については責任を負うことはない,これがプロミス側の訴訟での言い分です。

◆ しかし,前述の契約変更は,プロミスとクオークローンの2者間でいかようにでもできるものでしょうか。この契約は,顧客という「第三者のためにする契約」(※3)です。2者間で契約の締結を行うが,その契約によって利益を受ける顧客という第三者が存在するのです。民法には,契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約束したときは,第三者は,債務者に対して直接にその給付を請求することができると定められていて,その権利は,第三者が,その権利を享受する意思表示(受益の意思表示)をしたときに発生すると書かれています(民法537条)。そして,その権利が発生したときは,当事者はこれを変更し,消滅させることができないとも定められています(民法538条)。これを,本件に当てはめますと,当事者の一方であるプロミスが第三者である顧客に対して過払金の返還を約束したときは,顧客はプロミスに対して直接に過払金の返還を請求することができることになります。顧客が受益の意思表示をした後は,プロミスとクオークローンは,プロミスに対する過払金返還請求権を消滅させることができません。
 本件の契約の切替では,顧客は,プロミスの店舗に出向き,切替契約の書面に署名・捺印しました。その書面には,「クオークローンとの取引に係る紛争の窓口は従前の契約先にかかわらずプロミスとすることに異議はない」などと記載されていました。
 私が担当した訴訟の東京高裁判決は,Aさんが,契約切替の手続をしたことによって,黙示に受益の意思表示をしたと認定して,Aさんのプロミスに対する過払金返還請求権が発生したと認め,プロミスとクオークローンがその後,この権利を消滅させることができない,と結論づけました。
 プロミスは,上告はせず,判決が確定しました。

◆ ただ,全国各地の裁判所(簡裁・地裁・高裁)で行われている訴訟の判決は,借主にとって有利なものばかりではなく,借主側敗訴のものも多くあります。同じような事実経過を前提としても,判決を下す裁判官によって解釈が分かれ,結論が異なっているのです。同種事案の判決が続々出ているところですが,動向が注目されます。

※1 利息制限法の法定利息
 お金の貸し借りをしたときに,利息を付けるということがあります。親族や知人の貸し借り等では,無利息ということも多々ありますが,業者が顧客に貸し付けるときには,ほぼ例外なく利息を付けます。お金の貸し借りは,当事者間の合意=契約です。金銭消費貸借契約といいます。民法には「契約自由の原則」というのがあって,当事者間で合意すれば,お互いが納得しているのですから,どのような内容の契約をしてもよいというのが大原則です。金銭消費貸借についても,原則はそのとおりなのですが,当事者の自由に任せしまうと,業者が,顧客のお金に困って藁をもすがろうとしている状態に乗じて,法外な利息の合意をして貸し付けるということも起こってきます。100万円を10日後に110万円して返せ(10日で1割=「といち」),などということも現実にあるわけです。しかし,いかに契約自由だからといって,このような状況を放置しておくと,債務者が経済的に困窮し,最悪,自殺に追い込まれるというケースもありました。そこで,このようなことを防止するために,利率の上限を定めたのが利息制限法です。貸金の金額によって,次のとおり定められています(利息制限法1条)。

 元本の額が10万円未満の場合        ―1年につき20%
 元本の額が10万円以上100万円未満の場合 ―1年につき18%
 元本の額が100万円以上の場合       ―1年につき15%

 当事者間で定めた利息(約定利息)が,この定められた利率によって計算した利息(法定利息)の金額を超えるときは,その超えた部分の利息は無効とされます。利息の払いすぎということになりますので,その分は元本に充当される(その分元本が減る)ことになります。

※2 利息制限法に基づく引き直し計算
 利息制限法が定めた利率については,※1でご説明しました。
 当事者間で定めた利息が,利息制限法で定められた利率によって計算した利息を超えるときは,貸し借りの全ての取引について,法的に誤った計算によって途中の利息や残高が計算されていたわけですから,これを全て,利息制限法に基づいて計算しなおす必要があります。これを,引き直し計算といいます。

 たとえば,100万円を借り入れて10か月で返済する(1回の返済金は元本10万円,利息3万円,総合計返済額130万円)という契約をしたと仮定します。早速,1か月後に13万円返済するわけですが,この利息3万円のうちに,法定利息を超えた部分が含まれています。元本100万円について1か月で請求することが許される利息上限額は,100万円×15%×30日/365日=12,328円です。利息の3万円のうち,差額17,672円は,無効な利息なので,元本に充当しなければなりません。そうすると,1か月後に返済したことによって,元本は,100万円-10万円-17,672円=882,328円になります。業者の計算では,この時点での元本は90万円なのですが,引き直し計算をすると,元本が減るのです。そしてさらに1か月後に2回目の返済として13万円を返済するわけですが,この利息3万円の中にも,法定利息を超えた部分が含まれています。元本882,328円について1か月で請求することが許される利息上限額は,882,328円×0.18×30日/365日=13,053円です。利息の3万円のうち,差額16,947円は,無効な利息なので,元本に充当しなければなりません。そうすうと,2回目に返済したことによって,元本は,882,328円-10万円-16,947円=765,381円になります。業者の計算では,この時点の元本は80万円なのですが,引き直し計算をすると,1回目の返済のとき以上に元本の減り具合が大きいことがわかります。こうやって,順次計算をしてゆくと,徐々に元本が減り,期間が長ければ過払いということも出てきます。単に返済するだけなく,貸付・返済を繰り返すということもありますが,同じように計算をしていって,法的に認められる残元本,過払金を算定してゆきます。このような計算を引き直し計算というわけです(もちろん,前述のような手計算でなく,コンピューターが計算することになります)。

※3 第三者のためにする契約

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