弁護士の事件簿・コラム

海産物の思わぬ規制

弁護士 中里 勇輝

1 はじめに
 先日、コロナ禍のなか、屋外でのレジャーとして潮干狩りに人が集まっているというニュースを見ました。子どもたちが一生懸命に砂浜を掘る姿を見ると、ほのぼのとします。
 しかし、海産物の採取には皆様が思っていない規制もあり、悪意なく規制に違反してしまうことがあります。
 今回のコラムでは、海産物の採取に関する規制の一例について説明します。

2 漁業権について
 海産物の採取に関する規制として、まず、漁業権の侵害の禁止があります。
 漁業権とは、一定の水面で漁業を行う排他的・独占的権利のことです。裁判例では「水産動植物の採捕又は養殖の事業のことをいう」、「特定の水域における排他的な利用を内容とする権利である」などと表現されています。
 漁業権は海面ごとに設定されており、神奈川県では漁業権の設定範囲が地図で公開されています。
 そして、「排他的」という言葉から想像がつくかと思いますが、漁業権が設定された範囲で海産物を採ることができるのは正当な権利を有している人だけです。権限なく海産物を採ってしまうと、漁業権の侵害となってしまいます。
 そして、漁業権の侵害について、漁業法195条は「漁業権・・・を侵害した者は、100万円以下の罰金に処する。」と罰則を定めており、刑事処罰の対象になります。
 実はこの漁業権侵害、以前は罰金20万円が上限とされていました。
 しかし、悪質な密漁が増えたことから、昨年12月から改正法が施行され、上限が100万円まで引き上げられています。

 潮干狩りで採られるアサリも、第1種共同漁業権という漁業権の対象になります。そのため、アサリの漁業権が設定されている範囲でアサリを採ると、漁業権の侵害に該当することになってしまいます。
 密漁と聞くと、転売目的で大量に海産物を採る行為のことだと思われる方も多いと思いますが、このアサリの件も、漁業権の侵害という点では同じです。
 潮干狩りのほのぼのとしたイメージとは裏腹に、場所を気にせず潮干狩りをすると、法律に違反することになりかねません。当然のことですが、潮干狩りは許された場所で行うようにしましょう。

3 そのほかの規制について
 また、海産物の採取について、漁業法による規制のほかにも、都道府県ごとの規制があります。
 神奈川県の場合、神奈川県海面漁業調整規則という規則が定められています。
 この規則は、海面についての規制を定めており(これに対して河川については神奈川県内水面漁業調整規則が定められています)、主な規制として、禁漁期間、対象物の大きさ、採取器具などの制限があります。そして、この規則に違反した場合も罰則の対象となることがあります。
 例えば、禁漁期間でいうと、この規則では、1月1日から5月31日まで、そして10月15日から11月30日までアユを採ることを禁止しています。アユ漁の解禁が報道されることもありますが、このような規制が設けられているのです。
 また、大きさの制限でいうと、この規則では、かく長2センチメートル以下のアサリの採取を禁止しています。余り聞き慣れない「かく長」という言葉ですが、この規則では「かく長」「かく高」など、貝ごとに大きさの測り方を決めています。かなり細かな話になりますので、気になる方は調べてみて下さい。
 さらに、採取器具について、熊手は15センチメートル以下でなければならないという規制もあります。
 これらの規制に違反して海産物を採取した方が検挙されるケースは決して少なくありません。
 こういったケースでは、検挙された人が法律に違反しているという自覚に欠けることも多いと思います。しかし、「周りが採っていたからいいと思った」「規制を知らなかった」と言ったところで、それは通じません。

4 最後に
 海産物を巡る規制について、その一部を取り上げてきましたが、その規制は多岐に及んでいます。
 潮干狩りの会場に書かれていたルールが、実は罰則もある法的規制だったということも考えられます。罰則があるから守るべきとか、罰則がないから守らなく良いという話ではありませんが、ルールを守って楽しんでいただきたいと思います。

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