弁護士の事件簿・コラム

離婚をしたいのに配偶者が行方不明になってしまった場合どうする?

弁護士 堀川 なつき

 離婚をしたい場合、夫婦の双方が離婚を希望しており、財産分与や子どもの養育費等の離婚条件についても合意ができているのであれば、裁判所での手続きを経ることなく離婚をすることができます(このような当事者の同意による離婚を、「協議離婚」といいます。)
 他方で、夫婦間で離婚をすることに争いがある場合には、裁判所で離婚に関する手続きを行う必要があります。
 離婚に関する手続きを行う際は、原則として、いきなり訴訟を提起するのではなく、まず調停手続きを経なければならないというルールがあります(このルールを、「調停前置」と言います)。しかし、配偶者が行方不明であるケースでは、調停前置の例外が認められ調停手続きを経ずに訴訟提起を行うことができる場合があります。
 もっとも、調停前置の例外に該当するとして訴訟提起したとしても、配偶者が行方不明であるケースでは、スムーズに訴訟手続を開始できるわけではありません。なぜなら、訴訟手続きを始めるにあたっては、訴状などの裁判に関する書類が訴えられた相手に届く必要があるからです。配偶者が行方不明であるケースでは、訴状等が配偶者に届けられず、訴訟を提起しても訴訟手続きが開始されないということになるのです。
 配偶者が行方不明になってしまった場合には協議離婚をすることもできません。そのうえ、調停前置の例外に該当し訴訟を提起したとしても訴状が届けられず、訴訟手続きが開始されないとすると、いつまでも婚姻関係の清算ができないことになってしまいます。
 このようなときに、相手に実際には訴状などの書面が届いてはいないが、届いたものとして裁判手続きを進めることができる「公示送達」という制度があります。

 公示送達は例外的な制度ですので、民事訴訟法第110条1項において規定された要件を満たす場合にのみ行うことができます。
 配偶者が行方不明になってしまったというようなケースでは、「当事者の住所、居所その他送達すべき場所が知れない場合」(民事訴訟法110条1項1号)という要件に該当するとして公示送達の申立てを行うことになりますが、その際は、住民票上の住所地を確認して居住の実態を調べるなど、配偶者の住所・居所を特定するためのできる限りの調査を行う必要があります。
 そのうえで、同条項1号の「当事者の住所、居所その他送達すべき場所が知れない」場合に該当するということになれば、公示送達の申立てが認められることとなります。
 私が担当したことがあるケースでは、いなくなってしまった配偶者が外国籍の方だったので、出入国在留管理庁に対し弁護士会を通じて照会を行い、配偶者が日本国外に出国したまま日本へ入国した履歴がないことを確認しました。
 そして、配偶者が日本国外にいることは間違いないが、その後どこにいるのか調査することができないということを主張して、公示送達の申立てが認められました。
 配偶者が外国籍の方の場合でも、配偶者の国籍国での最後の住所地(日本に入国する前の住所地)がわかっているようなケースでは、その住所地に郵便を送り、配偶者に郵便が届かなかったことの報告を求められることもあるようです。

 このように、公示送達により裁判手続きを進めたい場合でも、事案により調査すべき事実の内容が異なります。
 このようなケースでお困りの場合は、一度弁護士にご相談ください。

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