弁護士の事件簿・コラム

少年法「改正」後の少年刑務所

弁護士 栗山 博史

★はじめに
 2001年4月から施行された「改正」少年法は,16歳以上の少年が故意の犯罪行為によって被害者を死亡させた場合には,「原則逆送」すると規定し(少年法20条2項),事実,「改正」前であれば保護処分に付されていた少年が,この規定に基づき,多く逆送されている。最高裁の統計によれば,「改正」前過去10年間の平均逆送率は,殺人24.8%,傷害致死9.1%,強盗致死41.5%であったが,2001年度は,殺人50%,傷害致死68.2%,強盗致死88.9%となっており,殺人・強盗致死でも2倍,傷害致死では実に7倍を上回る結果となっている。こうなると,これまでの付添人活動では,ほとんど視野に入っていなかった少年刑務所が,少年たちの現実の処遇場所としてクローズアップしてくることになる。また,もし,少年刑務所が少年の更生にとって有害なら,付添人としては審判で「逆送反対」と主張せざるを得ない。もはや少年刑務所を無視しては付添人活動ができなくなってしまったのである。そうだとすると,少年刑務所をこの目で見てみることも必要だろう。そういう問題意識から,本年7月の川越少年刑務所見学が実施された。

★少年刑務所とは
 少年院が少年に対する矯正教育を実施する施設であるのに対し,少年刑務所は,刑務所である以上,刑の言い渡しをされた者に対し刑の執行をする施設である。したがって,懲役刑を科された少年受刑者の処遇の基本は刑務作業であり,教育活動も1日4時間以内(監獄法施行規則85条1項)と制限がある。たしかに,川越では,少年受刑者のためだけの工場を新設してそこには教科書を置き,少年受刑者は,午前中の時間を使い,月曜日はホームルーム(自分の1週間の予定を立て,その実践状況をみんなの前で発表して振り返る等),火曜日は教科教育,水曜日は生活指導(課題作文,面接等)・・・などといった教育を受け,また,職業訓練としての園芸も,成人とは分離して処遇されているなど,少年受刑者への配慮はなされているようだが,姫路や奈良の少年刑務所では,成人との分離は夜間(居室)だけで,日中の作業は成人と一緒に処遇されているということであり,全国に8庁ある少年刑務所での処遇内容にはかなりのばらつきがあるようだ。

★少年法「改正」後の少年刑務所の動向
 法務省矯正局は,少年法「改正」にあたり,①処遇の個別化,と②処遇内容・方法の多様化,という基本的理念を打ち出し,関係法令の改正も行った。現に,それに基づいて,川越では,少年院の処遇を基本モデルとして,個別的処遇計画の策定,個別担任制(1対1)の導入,処遇類型別指導における「生命尊重群」(被害者に罪障感をもたせる)の設置,役割交換書簡法の導入など,少年受刑者の特性に配慮した処遇が試みられている,ということである。
 しかし,少年刑務所とはいっても,受刑者の圧倒的多数は若年成人受刑者であり(川越でも1300人を超える受刑者中少年は僅か10名である),そういった体制の中で,少年に対する個別処遇をどこまで貫けるか,自ずから限界があるし,さらには,他の7庁と比べて,川越は「モデル少年刑務所」的な位置付けにあり,他庁で川越を超える処遇がなされているとも思えない。そういう点からいえば,川越を見て安心というわけにはいかず,今後も,全国の少年刑務所を絶えずチェックしてゆくことが必要なのだろう。【横浜弁護士会「子どもの権利」第26号(2002.11.30)所収】

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