弁護士の事件簿・コラム

神奈川医療少年院見学記

弁護士 栗山 博史

★はじめに
 今年5月30日,相模原市内にある神奈川医療少年院を訪問しました(以下「神奈川医療」といいます)。神奈川医療は,「医療」の名前が付いていますが,医療措置が必要な少年(精神障害,たとえば統合失調症等)が入ってくる「病院」としての医療少年院(関東医療少年院と京都医療少年院)とは異なります。神奈川医療は,このような少年を対象とするのではなく,H1(知的障害者であって専門的医療措置を必要とする心身に著しい故障のない者及び知的障害者に対する処遇に準じた処遇を必要とする者),H2(情緒的未成熟等により非社会的な形の社会的不適応が著しいため専門的な治療教育を必要とする者)を対象としており,「特殊教育課程」と呼ばれています。家庭裁判所の審判で医療少年院送致の決定を受けた少年以外にも,初等,中等,特別の各少年院送致の決定を受けた少年全てが対象とされているようです。
 では,うかがったお話のうち,印象に残った点や感想などを記してみたいと思います。

★対象少年や非行の特徴
 少年が抱えている障害については,軽度知的障害が最も多いとのことですが,広帆性発達障害(自閉症,アスペルガー等),ADHD(注意欠陥多動性障害)の少年もいます。対人関係をうまく結べない少年が多く,それゆえ,不良・反社会的集団に属する者は少なく,単独犯が多いようです。H1の少年は,親の遺伝や,親の養育能力の欠如等により適切な環境の中で育たなかった少年が多いとのことです。H2の少年は,奇異な言動によっていじめの対象になったり,被虐体験があるなど,自己イメージが低下しており,同年代の子どもとのつきあいが苦手で,「友だちは1人もいません」などと言う少年も少なくないそうです。
 神奈川医療の入所者で多い最も多い非行は窃盗ですが,放火と幼児に対する強制わいせつが他の少年院と比べて多いのが特徴です。放火は,たったマッチ1本でものすごい力を発揮できる体験になり,それまでの阻害感,被害感は一気に攻撃性に転化してゆきます。思春期のムラムラとした性的欲求は,同年代の女性には向かわず,「思いどおりになる」低年齢の子どもが対象とされます。このような少年には,とても強姦はできません。まさに「弱い」者の非行です。
 そのような非行を繰り返す少年であるがゆえに,帰住先の調整が困難な場合が多いとのことです。親に精神障害がある場合のほか,放火や性非行の少年を抱えて地域で生きてゆけない,という理由で引き受けを拒否する家庭も多く,そうすると,再非行のおそれのある少年を社会復帰させることが難しくなるとのことです。

★少年に対する処遇
 処遇については,個別化が徹底している印象を持ちました。個々の少年のクリティカル・パス(筆者注:処遇(治療)プログラム)があるほか,また,個別の担任との間でメールのやりとりができるというのは印象的でした。教育のあり方も,非行別指導のほか,心理療法が重視されています。サイコドラマ(即興劇を演じることで内面感情の表出や自己・他者の関係に対する理解を深めさせる),キネジ療法(特定の運動動作で緊張・過敏などの反応を治療する),グループカウンセリング,ロールレタリング等です。少年院というと規律重視のところがまだまだ多い中で,神奈川医療は,「医療」少年院であるがゆえに,やはり特殊です。

★おわりに
 1人1人の少年に向き合い,それぞれの個性に応じて指導あるいは治療してゆく,という姿勢には,少年に対する優しい眼差しを感じました。居場所のなかった少年でも,ここなら受容されると思うと安心です。しかし,一方で,「医療」と名の付かない「普通の」少年院の処遇が気になります。ギャップが多きすぎはしないかと…。少年院に送致されている少年は,多かれ少なかれ,虐待やいじめ,学校不適応など,被害体験を持っているのではないでしょうか。その部分が闇に隠れて,指導が表層的になっていないのかどうか。
 今後の少年院見学にあたっては,そういう視点から,「普通の」少年院を見てみたいと思います。【横浜弁護士会「子どもの権利」第34号(2006.11.23)所収】。

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