弁護士の事件簿・コラム

保証制度の改正について

弁護士 野呂 芳子

1 保証制度とは?
 「保証人になったために、大変な目にあった。」というような話を、周りや、報道で見聞したことはありませんか?
 「保証制度」とは、簡単に言いますと、借金の返済義務などを負う債務者(「主債務者」といいます。)が債務を履行しなかった場合に、保証契約を結んでいた者(=保証人)が、主債務者に代わって支払義務を負う制度です。
 また、保証制度の中には、「連帯保証制度」という制度があります。
 例えば、銀行からお金を借りた主債務者が支払をしなければ、保証人は、主債務者に代わって全額支払をしなければいけないわけですが、単なる「保証人」であれば、債権者に対し、「自分より先に、まず主債務者に請求してくれ。」と求める権利(「催告の抗弁権」といいます。)や、主債務者には取り立てが容易な財産があることを証明した上で、「自分の財産から取り立てる前に、主債務者の財産から取り立ててくれ。」と求める権利(「検索の抗弁権」といいます。)があります。
 しかし、連帯保証人には、そのような催告の抗弁権、検索の抗弁権はなく、主債務者と同一の責任を負わされてしまいます。
 そして、社会で結ばれている保証契約の大半が、「連帯保証契約」です。
 友人や家族から、「迷惑はかけないから。」と頼まれて、断り切れずに連帯保証人になってしまい、結局、莫大な債務を負うことになってしまった・・という事例は、けして珍しくはないのです。

2 民法改正
 このように、主債務者でもない者に大きな責任を負わせる保証制度は、しばしば批判を受けてきました。それを踏まえ、2020年4月1日から施行された改正民法では、以下のように、保証制度に新たなルールが設けられました。

⑴ 極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約は無効
 根保証契約とは、保証人になる時点では、どれだけの金額になるのかはっきりしない債務を保証する契約です。
 例えば、子供がアパートを賃借する際に、親が、大家さんとの間で、子供が賃料を延滞した場合の債務などをまとめて保証するケースなどが該当します。
 このような根保証契約では、将来、保証人が想定外の債務を負うことになりかねません。
 そのため、個人が保証人になる根保証契約については、保証人が責任を負う上限となる「極度額」を定めない場合は、保証契約は無効とされました(民法465条の2)。

⑵ 特別の事情による保証の終了
 個人が保証人となる根保証契約については、保証人が破産したときや、主債務者又は保証人が亡くなったときなどは、その後に発生する主債務は、保証の対象外となりました(民法465条の4)。

⑶ 公証人による公証人による保証意思確認手続が必要になったこと
 個人が事業用の融資の保証人になろうとする場合は、原則として、予め公証役場に行き、公証人から、保証をしようとしている主債務の具体的内容を認識しているか、保証のリスクを理解しているか、主債務者の財産・収支の状況等について主債務者からどのような情報の提供を受けたか等について質問を受け、保証意思の確認を受けることが必要になりました。
 そのうえで、保証契約締結の前1か月以内に、「保証意思宣明公正証書」という書面を作成することが義務づけられました(民法456条の6)。

⑷ 情報提供義務の新設
 以下のような情報提供義務が新設されました。
① 主債務者が、ある人に対し、事業用債務の保証人になることを依頼する際は、依頼された人が、保証人になるかどうかを適切に判断するために、主債務者は、自分の財産や収支の状況、主債務以外の債務の金額や履行状況等に関する情報を提供することが義務づけられました(民法465条の10)。
② 主債務者から依頼を受けて保証人になった場合は、保証人は、債権者に対して、主債務者の支払状況の情報提供を求めることができるとされました(民法458条の2)。
③ 主債務者が、分割金の支払を遅延するなどして、一括弁済の義務を負った場合(「期限の利益喪失」といいます。)、債権者は、個人の保証人に対しては、債権者が期限の利益喪失を知ってから2か月以内に通知をしなければいけないとされました(民法458条の3)。

 以上のように、保証人保護の観点から改正はされていますが、それでも保証人になるということは、リスクを伴うものであるという根本は変わりません。
 もし、保証の依頼を受けた場合、状況によっては事前に弁護士のアドバイスを受けることをお勧めします。

「弁護士の事件簿・コラム」一覧へ »