弁護士の事件簿・コラム
有責配偶者からの離婚請求を棄却する判決を取得しました。
弁護士 野呂 芳子
久々のコラムです。
有責配偶者である夫(原告)が、妻(被告)に対し、離婚請求訴訟を提起した事件で、私が、妻(被告)の代理人として活動し、離婚請求を棄却する判決を取得できましたので、報告します。
1 有責配偶者とは何か
「有責配偶者」とは、婚姻関係を破綻させた責任のある配偶者のことであり、不貞行為を行った配偶者が典型です。
2 有責配偶者からの離婚請求
かつては、有責配偶者からの離婚請求は認められていませんでした。
しかし、昭和62年に最高裁が、
「①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいるか否か
②その間に未成熟の子が存在するか否か
③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状況に置かれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような事情が存するか否か
等の諸点を総合的に考慮して、当該請求(野呂注、離婚請求)が信義誠実の原則に反するといえないときには、当該請求(野呂注、離婚請求)を認容することができると解するのが相当である。」
という判断を示し、有責配偶者である夫からの離婚請求を認めました。
このように、一定の要件を満たせば有責配偶者からの離婚請求も認められるということになったので、上記最高裁判決以降は、有責配偶者であっても離婚を求めて裁判を起こす、という事案が珍しいものではなくなりました。
3 本件
今回私が担当した事件(以下「本件」といいます。)では、裁判所は、上記最高裁が示した各要件①~③を個別に検討し、
①同居期間が9年3ヶ月であるのに対し、別居期間は12年近いことから、別居期間は「相当長期に及んでいる。」と判断しました。
②両当事者間の子は、大学生ではあるものの、既に成人していること等から、「子の存在そのものが離婚の妨げになるとまではいえない。」と判断しました。
この2点については、離婚を認容する要件にあてはまっています。
しかし、裁判所は、③の要件を詳細に検討し、
ア 別居にいたる原告の悪質性が高いこと(野呂注、風俗店の利用、不貞、発達特性のある子の育児への非協力的な態度が指摘されました)
イ 別居後も、原告の対応は不誠実であったこと
具体的には、
・別居当初、被告は働けない状況にあったにも拘わらず、原告は、児童手当の受取人を原告から被告に変更する手続への協力を拒否し、そのまま児童手当を受け取り続けたほか、婚姻費用の仮払いも行わなかった。
・子の養育に苦労する被告に誠実に対応しなかった。
・子が私立の学校に進学することを応援する姿勢を再三示しながら、被告から、私立進学による学費の負担を求められるとこれを拒否した。
・子が大学付属高校に通っており、大学進学が当然に想定できる状況であったに拘わらず、「養育費の終期は高校卒業まで」という主張を貫いた。
等の事実を指摘し、原告の態度は、安易、無責任、不誠実であり、原告が「離婚しても子の学費を支払う意思がある。」と言っていることは信用できないと述べ、結論として「被告は離婚により、精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状況に置かれるものと考えられ、原告の離婚請求は信義則に照らして認められない。」と判断したのです。
4 最後に
有責配偶者からの離婚請求の可否はしばしば争点になるところであり、昨今は、「5年別居すれば概ね認められる。」と認識されている方や、そのように説明している弁護士もいるようです。
確かに、別居期間の長さは大きな要素ではありますし、本件でも、「12年近い別居で未成年の子もいない。」という点を重視すれば、離婚請求が認容されることは十分にありえました。
しかし、代理人として丁寧な主張立証を行い、裁判所もまたそれを誠実に検討してくださった結果、原告の悪性・不誠実さを重視し、離婚請求を棄却する判決を取得できた次第です。
参考にしていただければ幸いです。
- « 前の記事 保証制度の改正について