弁護士の事件簿・コラム

原野商法の2次被害について

弁護士 井上  泰

 今月に入って、全国の消費生活相談センターで「原野商法」の2次被害の相談が急増しているというニュースが流れました。
 実はこの2次被害の相談は昨年過去最多の1048件の相談があったところ、今年はその相談件数はさらに昨年を上回る勢いであるというのです。
 続けて大阪で、悪質業者を相手に被害者からの集団提訴が行われたというニュースも飛び込んできました。
 前回5月のコラム「高齢者の消費者被害」でも取り上げましたが、被害者の多くは高齢者の方々です。
 「原野商法」とは、1970年代から80年代にかけてほとんど価値のない原野や山林を、値上がりがみこまれるという甘い言葉で、時価の何倍もの値をつけて売りつけるというものです。
 勧誘業者は価値のない原野や山林を被害者に売った後、それに気がついた被害者が業者に連絡しても既に会社の実体は無くなっており、多くの被害者が泣き寝入りすることになりました。
 被害者は、売りつけられた山林や原野をそのまま処分もできずに持っているという状態が少なくありませんでした。
 ところがそのような被害者を狙って、原野商法の2次被害が生じました。
 その手口は、原野や山林を所有している被害者に対して、除草や必要のない管理を名目として契約をさせたり、架空の買い主の存在を前提に売却のための測量名目で契約をさせたりすることによって、さらに数十万円を被害者から欺し取るというものでした。
 私が弁護士登録した1997年頃にも、その2次被害の相談を受け、悪質業者に対して契約を取り消すなどして解決したことがあります。
 ところが、これだけの時間がたってから、このような二次被害の相談が過去最多となったことを聞いて、正直驚くとともに腹立たしく思っています。
 その背景には、従前の原野商法の被害者の方々の高齢化があり、自分の相続を前に原野商法の被害に遭って購入させられた原野や山林をうまく処分したいという心情につけ込んで被害が拡大しているというのです。
 手口もさらに巧妙化しています。
 悪質業者はまずは、被害者がもっている原野を購入する買い主がいることを架空の買付証明書を提示して誤信させます。そして、原野を買い取る条件として、買い主は別の二束三文の不動産とセットで買い取ることを希望しているといって、別の不動産をさらに被害者に数百万円で購入させ、被害者にその代金を支払わせます。
 その後、原野の買取り話しを持ちかけた悪質業者とは連絡が取れなくなり、結局のところ元々買わされていた原野の買い取りどころか新たに不要な不動産まで抱え込まされるという被害が報告されています。
 明らかに被害者の名簿が何らかの形で悪質業者に流れており、それを利用して2次、3次被害に遭われる方が多いのが現実だと思われます。
 前回も書きましたが、どうか、このような被害に遭わないようにご本人ご家族ともに気をつけていただきたいと思います。
 遺された家族に負の遺産を残さないように整理したいと考える被害者の心情を利用する悪質な商法を許すわけにはいきません。
 もし心配なことがあれば、速やかに弁護士などの法律専門家や消費生活センター等に相談いただければと思います。

「弁護士の事件簿・コラム」一覧へ »