弁護士の事件簿・コラム

子どもが三輪車を運転するのに運転免許は必要?

弁護士 中里 勇輝

1 はじめに
 子どもが三輪車を運転するとき,運転免許は必要でしょうか?
 いらないに決まっていると思う方がほとんどでしょうし,何をばかなことを言っているのだと言われてしまいそうです。
 では,三輪車を運転するとき,車道と歩道,どちらを走らなければならないでしょうか?
 こちらも,三輪車に乗った子どもに車道を走れなんて酷い話があるわけなく,当然歩道だと思われる方がほとんどだと思います。
 それでは,運転免許がいらない根拠は?三輪車が車道を走らなくていい根拠は?と聞かれたとき,どう答えますか。
 言葉に詰まる方もいると思います。
 端的に答えを言うなら,道路交通法が運転免許を必要とする車や車道を走らなければならない車について定めており,子どもの三輪車はその車に含まれていないので,運転免許は不要だし,車道を走らなくてよいということになります。
 しかし,この結論を導くのは,複雑な条文を読み解く必要があります。
 このコラムでは,運転免許や通行場所の規制を通じて,当たり前のような結論の背景に,複雑な法律の構造があるということについて説明します。

2 自転車の規制について(自動車との比較)
 三輪車の規制の前に,まず,自転車の規制について,説明します。
 自転車は運転免許をもっていなくても運転していいのでしょうか。
 ほとんどの方は「はい」と答えるはずです。
 そのとおりで,道路交通法上,自転車の運転にあたって,運転免許の取得は不要です(自治体によっては自転車免許証という制度もあるそうですが,道路交通法の要請ではありません)。
 では,自転車が通行できるのは,車道でしょうか,歩道でしょうか。
 この質問は答えが分かれるかもしれませんが,道路交通法は,原則として自転車は車道を通行することとしています。

 自動車を運転するには運転免許が必要ですし,自動車は車道を通行しなければなりません。
 道路交通法における自転車と自動車への規制を比較すると以下のようになります。

 運 転 免 許  通 行 場 所 
 自 転 車    不 要    車 道 
 自 動 車    必 要    車 道 

 同じ道路交通法の規制ですが,自転車は,通行場所については自動車と同じように扱われ,運転免許については自動車と異なった扱いを受けます。
 実際に条文を見てみましょう。

⑴ 通行場所について
 通行場所については,道路交通法17条が規定しています。
 車両は,歩道又は路側帯(以下この条において「歩道等」という。)と車道の区別のある道路においては,車道を通行しなければならない。
 つまり,原則として,「車両」は「車道」を通行しなければなりません。
 では,「車両」とは何なのでしょうか。
 ここでも同じように,道路交通法が出てきます。
 2条1項8号が「車両」とは,「自動車,原動機付自転車,軽車両及びトロリーバスをいう。」とすると定めているのです。
 自転車がどうなるのかはまだ出てきませんが,ここで「軽車両」という言葉が出てきました。
 「軽車両」と聞いて,軽自動車のことを考えた方もいるかもしれません。実際は違います。ここからさらに道路交通法の条文が登場します。
 2条1項11号では,「軽車両」とは「次に掲げるものであつて,身体障害者用の車椅子及び歩行補助車等以外のもの」とされており,具体的には「自転車,荷車その他人若しくは動物の力により,又は他の車両に牽引され,かつ,レールによらないで運転する車(そり及び牛馬を含む。)」が含まれるとしているのです。
 ようやく「自転車」が出てきました。
 話が複雑になってきたので,順番に説明します。
 「車両」は車道を通行しなければならない。
 「車両」には「軽車両」が含まれ,「軽車両」には「自転車」が含まれる。だから,「自転車」は「車両」に含まれるものとして,車道を通行しなければならない。
 条文をいくつか追って,やっとこの結論が導かれます。

⑵ 運転免許について
 では,自転車の運転に運転免許はいらないという結論はどのように導かれるのでしょうか。
 運転免許について,道路交通法64条が
 何人も,・・・公安委員会の運転免許を受けないで・・・,自動車又は原動機付自転車を運転してはならない。
 と定めています。
 では「自動車又は原動機付自転車」とは何なのでしょうか。
 ここでもまた道路交通法の条文が出てきます。
 まず「自動車」については道路交通法2条1項9号が定めています。
 「自動車」とは「原動機を用い,かつ,レール又は架線によらないで運転する車であって,原動機付自転車,軽車両及び身体障害者用の車椅子並びに歩行補助車,小児用の車・・・以外のもの」になります。
 少し複雑ですが,原動機を使うものであることが「自動車」であることの条件となっていますから,自転車は自動車ではありません。「自転車は自動車ではない」というのは当然のような話ですが,道路交通法を根拠にするとこのように説明ができるのです。
 次に,「原動機付自転車」ですが,道路交通法2条1項によれば,「内閣府令で定める大きさ以下の総排気量又は定格出力を有する原動機を用い,かつ,レール又は架線によらないで運転する車であって,軽車両,身体障害者用の車椅子及び歩行補助車等以外のもの」となります。
 こちらも少し複雑ですが,原動機付自転車も,原動機が付いていることが前提となっています。ですから,原動機が付いていない自転車は,「原動機付自転車」に該当しません。
 ここまで条文をみると,自転車は,道路交通法上の「自動車」でも「原動機付自転車」でもないから,道路交通法64条で運転免許が必要とされる対象にならないことが分かります。

 このように同じ道路交通法の条文でも「自動車又は原動機付自転車」という言葉を用いるか,「車両」という言葉を用いるのかという違いによって,自転車が入るかどうかが変わってきており,その結果,自転車の運転には運転免許は不要であるが,通行するときは自動車と同じく車道になるという規制の違いが出てくるのです。

3 子どもが乗る三輪車の扱いについて
⑴ では,子どもが乗る三輪車はどうなるのでしょうか。
 まず,三輪車には原動機が付いていませんから,「自動車又は原動機付自転車」ではありません。ですから,運転免許は不要です。
⑵ それでは,子どもが乗る三輪車の通行場所はどうなるのでしょうか。
 先ほど説明したとおり,自転車は「軽車両」ですから,車道を通行しなければなりません。

 では,三輪車は「軽車両」に含まれないのでしょうか。
 道路交通法2条1項11号は,「歩行補助車等」は「軽車両」に含まれないとしています。そして,2条1項9号によると「歩行補助車等」に小児用の車が含まれます。
 複雑になってしまったので,改めて三輪車について説明すると
・三輪車は「小児用の車」として,「歩行補助車等」に含まれる。
・そして,「歩行補助車等」は「軽車両」ではないから,三輪車は「軽車両」ではない。
・「軽車両」は車道を通行しなければならないが,三輪車は「軽車両」には含まれないから,車道を通行する義務はない
 ということになります。
 ここまで条文を辿っていくと,子どもが乗る三輪車は,運転免許がなくても運転することができるし,車道を通行する義務はないということが導かれるのです。

4 おわりに
 三輪車の運転に免許はいらないとか,三輪車は車道を通行する義務がないとか,そのようなことは,条文を読まなくても感覚的に当たり前だと思われるはずです。しかし,感覚的に当たり前でも,それが法律的にどのように根拠づけられているのかまでは把握していない方も多いと思います。
 今回は身近なテーマとして,自転車や三輪車を通じて道路交通法の条文について説明しましたが,このように,法律の構造が複雑になっていることは多々あります。
 弁護士は敷居が高いと感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが,複雑な法律を理解することはなかなか難しい場合もありますので,お気軽に相談をしていただければと思います。
 また,今回取り扱った自転車の運転については,自治体により保険の加入が義務づけられているところもあります。
 自転車の事故であっても多額の損害賠償が認められた事例もありますから,義務になっているかどうかを問わず,保険加入をご検討ください。

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