弁護士の事件簿・コラム
国際私法について
弁護士 堀川 なつき
今回は、国際私法について書きたいと思います。
「国際私法」という単語は、聞きなれない方が多いかと思いますが、簡単にいうと、国籍が異なる当事者間の紛争に対して、どこの国の法律を適用するのかを決定する法律のことを言います。
各国の法律の内容は異なっており、適用する法律により紛争解決の結果が異なる可能性があるため、紛争解決の際にどこの国の法律が適用されるのか、というのはとても重要な点です。
例えば、離婚に関していうと、そもそも離婚が認められるか、離婚の方法、離婚原因などが各国の法律で異なります。
フィリピンのように、離婚が認められない国もありますし、イスラム教の国のようにタラーク離婚(夫が妻に対して「タラーク」と三度唱えると、成立する離婚)という離婚の方法が有効とされている国もあります(なお、インドの最高裁ではタラーク離婚が違憲という判断が出ており、他にもこの離婚方法を禁止する法律が制定された国もあるようですが、いまだ有効とされている国もあるようです)。
日本法ではこのような離婚方法は認められていませんので、日本法を適用するとこの方法での離婚は認められないことになりますが、イスラム法を適用すると、認められるということになり、適用される法律により結論が異なることになるのです。
以上は極端な例ですが、各国の法律では、離婚原因される事由が異なりますので、国籍が異なる当事者間の紛争においては、どの国の法律が適用されるのかというのはとても重要な問題です。
さて、これからは、国際私法がどのようなものかイメージを持っていただくため、事例を用いてお話ししたいと思います。
【例】
A国国籍の夫Xと、B国国籍の妻Yの夫婦が、日本で出会い結婚し、それ以降継続して日本で暮らしています。
妻Yは離婚を望んでいるものの、夫Xが離婚を拒んでいる場合、離婚の可否を判断するために適用される法律は、どこの国の法律になるでしょうか?
(なお、このようなケースでは、そもそも日本の裁判所を利用できるか、という点をまず検討すべきですが(国際裁判管轄が問題になります)、この点については、また別な機会にご説明したいと思います。)
日本の主な国際私法としては、「法の適用に関する通則法」という法律がありますので、「法の適用に関する通則法」のうち、離婚について規定した法27条を確認すると、
第27条
第25条の規定は、離婚について準用する。ただし、夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、離婚は、日本法による。
と定められています。
次に、27条が準用する25条を確認すると、
第25条
婚姻の効力は、夫婦の本国法が同一であるときはその法により、その法がない場合において夫婦の常居所地法が同一であるときはその法により、そのいずれの法もないときは夫婦に最も密接な関係がある地の法による。
と定められています。
法25条では、①夫婦の同一本国法があるとき、②同一本国法はないが、同一常居所地法があるとき、③いずれもないとき、という①から③の段階に応じて適用する法律を決めていますので、本事例で適用される法律を検討するにあたっては、まず、①「夫婦の本国法が同一であるか否か」を確認することになります。
本国法とは、その人の国籍国の法律のことを言いますが、夫XはA国国籍、妻YはB国国籍ですので、夫Xの本国法はA国法、妻Yの本国法はB国法となり、夫婦の本国法は同一ではありません。
そこで、次に、②「夫婦の常居所地法が同一であるか否か」を確認します。
常居所地とは、人が相当期間にわたって居住することが明らかな地のことを言いますが、夫婦は婚姻以降継続して日本で生活しており、相当期間にわたって日本に居住していますので、日本が夫婦の常居所地となり、日本法が夫婦の常居所地法となります。
そのため、この事例でXY夫婦の離婚の可否を判断する際に用いられる法律は、日本法となるのです。
今回のコラムでは、日本の国際私法のご紹介と簡単な事例をご説明しました。
実際に離婚の裁判を行う際には、離婚の可否について適用する法律と、離婚の条件について適用する法律が異なる場合があるなど、わかりにくい点が多くありますので、まずは弁護士にご相談下さい。
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